NETFLIXシリーズ「BEASTARS FINAL SEASON」

NEWS

ハル役千本木彩花さん スペシャルインタビュー

──「FINAL SEASON」Part2の配信がはじまり、ついにアニメ『BEASTARS』シリーズが完結しました。率直にどのようなお気持ちでしょうか?
千本木 まず「寂しい」とい気持ちがありました。第1期の時はまだ原作も終わっていなかったですし、「アニメで原作の最後までいくには、どれくらい先なんだろう」と思っていました。でもついに終わってしまってやっぱり寂しいです。原作の完結を見届けたうえで、こうしてハルを演じさせてもらえるのは嬉しいことだなと思いました。アニメではちょっと特殊な収録方法をしていたので、その空間でしか出ないものを大事にしながら、ハルを演じきれたらいいなと思って臨みました。

───特殊な収録方法というお話がありましたが、アニメ『BEASTARS』シリーズはプレスコで、お互いの目を見ながら収録するスタイルですよね。
千本木 はい。「ガンマイクで録るから、もう自由にやっていいよ」という感じだったので、当初はみんな戸惑っていたと思います(笑)。ただ、最初に私とレゴシ役の小林親弘さんが、アフレコが始まる前に松見真一監督からお話を聞く機会があって、ハルというキャラクターについてや、それぞれのキャラクター、この作品についての考え方などの資料もいただいていました。その上で「より良い作品にしたいので、プレスコで大変かもしれないけれどよろしくお願いします」というお話をしていただいて。そこからは試行錯誤しながらも、みんなで頑張っていったという感覚があります。

──少し遡りつつお話をお伺いさせてください。アニメ『BEASTARS』シリーズの収録を振り返って、特に印象に残っていることはありますか?
千本木 私は基本的にレゴシ役の小林さんと一緒のシーンが多かったです。1期ですと、ハルがさらわれて、そのあと学園に戻るまでホテルに泊まるシーンが印象的に残っています。その時は同じような体勢で寝転がりながら収録しました。「ちょっと明るすぎるかも」と言って照明を少し落として、空気感を作りながら行ったのをおぼえています。

Part2ですと、レゴシの家に行くシーンですね。ハルがレゴシくんと横になって、レゴシくんの鼓動を聞くシーンがあるんですけど、本当に同じような体勢で収録していて。実際に小林さんの鼓動を聞いて、それを表現しようかなと思ったのですが、さすがにそこまでは聞こえなかったんです(笑)。でも、それくらいの距離感で演じさせてもらいました。

──インタビューで小林さん、メロン役の沖野晃司さんもおっしゃっていましたが、本当に舞台のようですね。
千本木 途中でコロナ禍を挟んでいたので、パーテーション越しでの収録もありましたが、それでもできる限り、相手の空気感を感じながらお芝居をすることは大事にしていました。たとえばPart1ですと、レゴシとハルが裏市に行ってウサギの肉を前に「私にキスして」というシーン。パーテーションはありつつも向き合って演じていました。

──実際に寝転がって演じたり、距離を近くして演じると、お芝居は変わるものですか?
千本木 そう思います。他人から得られる情報量が圧倒的に増えた感じがします。隣にいて空気感を感じながら演じることもできますけど、こういった方法であれば物理的な距離も近くなりますし、それによって出てくるものは変わってくるなと思います。

──観ている側としても、そういう生々しさのようなものを感じることがあります。裏側でそういうことをされているからなのかもしれませんね。
千本木 そうですね。だから音声だけでもしっかり聞ける作品になっている気がします。「間もあまり気にしなくていいよ」というところがあったりするので、そういう部分も影響しているのかなと思います。

──それにしても、かなり思い切った収録方法ですよね。
千本木 私たちが演じること自体はそこまで大変ではなかったです。体勢によって「どこにマイクを向けるか」といったことを考えなければいけなかったりと、スタッフの皆さんは本当に大変だっただろうなと。スタッフの皆さんが挑戦しながら取り組んでくださったからこそ、成り立った収録方法だったと思います。

──そうした方法で収録した本作をご覧になったときはどう感じましたか?
千本木 第1期の第1話を最初に見たとき、本当に感動しました。技術がすごいなと。ノイズや衣擦れの音もあるんですけど、環境音みたいなものも全部含めて作品になっていました。実際に実写作品を手がけている方が音声を担当されていると聞いて、実写に近い感覚なんだなと。そういった作り方をアニメーションに落とし込んでいるんだと思うと、あらためて感動しました。

──それだけに、終わってしまうのが寂しくなりますね。
千本木 そうなんですよね。余計に寂しくなっちゃいます。

──では、完結編となる『BEASTARS FINAL SEASON』Part2の台本を読まれたときの印象を教えてください。原作とは少し違う構成になっている部分もありますよね。
千本木 そうですね。原作だとハルがあまり登場しない部分も、アニメでは出てきたり、再編成されている部分もあって。Part1では出番が少なかった半面、Part2では「2話に1回くらいは出ているな」という感覚がありました。自分が出演していない回の台本はいただいていなかったので、全体がどういう構成になっているのか当時わからなかったです。でも一貫して感じたのは、このPart2のハルは「自分も何かしたい」んだなと。「レゴシくんを待っているだけじゃなくて、自分にも役割がある」という想いを持っているんだなって思いました。覚悟を決めているハル、という印象がありましたね。

──ハル自身も、シリーズを通して大きく変化してきましたよね。
千本木 そうですね。最初は「自分の存在を認めてもらう」というところから始まっていて。Part1では、ある意味ちょっと一歩引いてレゴシを見ている感じがあったと思うんです。でもPart2では、覚悟を決めてレゴシに寄り添って「レゴシくんの人生に自分も入っていきたい」「自分も何か影響を及ぼしたい」「一緒に何かをしていきたい」という気持ちが強くなったのかなと。

──今回はメロンという強敵も登場しましたね。メロンも印象的なキャラクターでした。
千本木 メロンの視点から見ると、また全然違う物語になるんだろうなとも思います。抱えているものは本当に大きいですし……。(板垣)巴留先生は本当にすごいキャラクターを生み出されたなと思いました。レゴシたちと敵対する存在が、異種から生まれたメロンという存在で、そこはハルにとっても考えさせられるところですよね。思わず感情移入してしまうよなって。

──ハルを演じてこられて7年となりますが、千本木さんにとってハルはどんな存在ですか?
千本木 友だち、親友みたいな存在ですね。ハルは自分と似ている部分もあるけれど、全然似ていない部分もあって。演じながら「こういう考え方もあるんだな」と勉強させてもらうことも多かったですし、違う視点を見せてくれる存在でもありました。「私がハルの一番そばで見てきたよ」という感覚です。ハルは友だちがいないところから始まって、そこからずっと一緒に歩んできたので……。

完結したことで、この気持ちを代弁する存在じゃなくなるのはものすごく寂しいですけど、この7年でハルの考え方は自分の中に根付いている気がしています。

──ご自身と似ている部分、似ていない部分というお話がありましたが、どんなところが似ていると思いますか?
千本木 似ている部分は、結構ハッキリ言うところですかね。ハルって、芯が一本通っていて「これ以外はいらない」といった選択ができる子だと思います。そこは私も意外と似ているかもしれません。私も「これがあれば他はいらない」と思えるタイプなので、そういうところは演じていて似ているなと感じます。

一方で、似ていない部分は、他者との距離感。深追いしないので、そこは全然違うなと思います。たとえばレゴシくんのことも、モヤモヤしながらも「今、自分がやるべきことはこれだから」と待てるんです。私はモヤモヤしたらすぐ聞きたくなってしまうし、答えを出したくなってしまいますが、ハルは自分の中で考えて、ちゃんと待つことができる。

──ああ、確かに。ハルにはそういうところがあるかもしれません。なかなかできることじゃないですよね。
千本木 すごく大人だなと思います。答えを急いで出そうとしないというか。出したら怖くなっちゃうからかもしれないんですけど。レゴシは学校を辞めて一匹暮らしを始めて、どうしているのか気になると思います。「レゴシくん今日は大丈夫かな」「何してたのかな」とか、きっと気になるはずなのに、それをしない。誕生日とか、本当に気になったときにしか会いに行かないんです。そこは自分とは全然違うところだなと思います。

──複雑なキャラクターだと思いますが、演じるうえで難しかった部分はありましたか?
千本木 似ている部分があるからなのか、私はあまり「難しい」と思ったことはなかったです。むしろ理解しやすいキャラクターでした。面白かったのは、ジュノを演じた種﨑敦美さんと話していたときのことですが、種﨑さんは「ハルが理解できなくて演じるのが難しかった」と言っていて、逆に私は「ジュノが理解できなくて演じられない」と思っていたんです。そこが真逆で面白いなと思いました。

──へえ!
千本木 ジュノは、プライドがしっかりあって、でも恥ずかしがり屋なところもあって、少し目立ちたがりでもあって……その塩梅がすごく難しいキャラクターだと思います。私はそこがなかなか掴めなくて。でもハルは、すごく理解しやすかった。当初一匹でいたことも、いろいろな男性と関係を持っていたことも、全部「自分の存在価値を確かめたい」からという目的がはっきりしているので、そこを一本持っていれば演じることができました。 ルイとの関係も、私は「目的は似ているけれど最終的なゴールが違う」という感じがしました。その瞬間はお互い好きかもしれないけれど、住んでいる世界が違うし、「彼じゃなきゃダメ」という関係ではなかった。でもレゴシくんとの場合は「レゴシくんじゃなきゃダメ」という関係性になっていて。レゴシに「ハルちゃんじゃなきゃダメなんだよ」と言われ続けたら、レゴシのことが気になっちゃうよなって。

──なるほど、レゴシに惹かれるのは必然だったのかもしれませんね。
千本木 レゴシはハルの寂しさや傷が欲しいんじゃなくて、「ハル自身が欲しい」と言ってくれる。たとえハルが「もう死んでもいい」と思っていたとしても、「それじゃダメなんだ」と言ってくれるのがレゴシ。だからハルの気持ちの移り変わりも、私はなんとなく分かるなって。外から見ると「ルイのこと好きだったのに、急にレゴシ?」と思われるかもしれないのですが、ハルの中にはちゃんと流れがあると思うんです。

自己肯定感が低くて、自分の存在に悩んでいた子にとっては、レゴシと出会うことはすごく大きな出来事だったと思います。レゴシは「食べたい」という本能との紙一重の存在ではあって、それを超えて、自分のところに来てくれる。そのことが少しずつ信頼につながっていくんじゃないかなと思います。

──ハルの気持ちを理解できていたからこそ、自然に演じることができた部分もあったということでしょうか。
千本木 そうですね。私自身が同じ行動をするかどうかはまた別の話になりますが、ハルの気持ちはすごく理解できました。一見するとすごく難しいキャラクターではあるけれど、紐解いていくと意外とシンプルで。そこはわかりやすかったかもしれません。

──種﨑さんとのエピソードが面白いですね。キャスティングの妙といいますか。
千本木 ジュノの嫌味のない感じがすごくピッタリで。ご本人と似ているかどうかはわからないですが、一歩前に出てくるのが嫌味にはならないところとか、「かわいい」って育てられてきたらこうなるよなって。自分たちで言うのもなんですが、TVシリーズのときから「この4匹(レゴシ、ルイ、ハル、ジュノ)はみんなピッタリだよね」という話をしていました。他のキャラクターもそうですが、みんなすごく役に合っているので、キャスティング能力がすごい!と思っています。

──エンディングを飾ったSEVENTEENの「Tiny Light」は、作品に寄り添った楽曲となっていますが、千本木さんはどのような印象を持たれましたか?
千本木 すごく素敵な曲だなと思いました。この明るさがいいですよね。彼らがまだ10代であることを思い出させてくれる曲調だなと思いました。

Part2はどうしても物語がシリアスになっていったり、犯罪などの大きな出来事も描かれたりして、全体として暗いトーンになる部分も多くなっていて。そのなかで、レゴシもハルもルイも、メロンに立ち向かって、ルイも自分の正義を貫こうとする。たとえばこれが25歳以上だったら、きっと躊躇してしまう部分もあると思って。10代だからこそ、あそこまで踏み出していけるんだと思います。

──歌詞も作品に寄り添ったものになっていますよね。
千本木 まさに『BEASTARS』にピッタリだなと思いました。それと〈Your smile's a gentle shower. 〉というフレーズの翻訳を見たときに、園芸部でハルが水をあげているシーンを思い出しました。もしかしたらレゴシは、おじいちゃんになっても思い出すのは、園芸部にいたハルの後ろ姿なんじゃないかなって思うんです。そう考えると、ハルはレゴシの心にある小さな種にシャワーを注いでくれて、生きる意味を与えてくれた存在なんじゃないかなと。作品のことをすごく理解して書いてくださっているんだなと感じましたし、これまでの物語を全部思い出させてくれるようで、とても素敵だなと思いました。

──最後に、キャッチコピーの「それでも、2匹なら。」という言葉について、千本木さんご自身はどのように感じたかを教えてください。
千本木 良いキャッチコピーですよね。本当にその言葉に尽きるというか。いろいろな2匹に当てはめて考えることができますが、ハルとレゴシで言えば、種族が違うので当然理解されない部分や批判もあると思います。それでもハルにとっては、「レゴシくんと一緒なら私は幸せだよ」という想いに尽きるんじゃないかなと。

──ハルは素敵な相手に出会うことができましたね。レゴシにも言えることではありますが。
千本木 私個人としても、羨ましいなって思いました。「この人とならどんなことでも乗り越えていける」と思える相手に出会えるって、誰にでもあるわけじゃないので。ハルにとってレゴシがそういう存在で、レゴシにとってもハルがそういう存在で……そう思える相手に出会えたことが、本当に良かったなと思います。

ライター:逆井マリ